
食べるものへの配慮
2025年11月10日
10月半ばに鶏の一部を廃鶏にしました。昨年の春から飼い始め1年間たまごを産んでくれた鶏たちです。
禾としては実に3年ぶり2回目の廃鶏。処理していただいたのは前回と同じ岡山市の三島食鶏さんです。この時ばかりはちょっとかわいそうなのですが、鶏を入れる専用のカゴに7羽ずつくらい入れて、軽トラに3段積み、高速道路を使って2時間の道のりです。もう少し近くで、または自分たちで捌けたらという思いはありつつ、販売するためには免許を取得した施設でないといけないため現状自分たちではできないし、このような仕事をする会社さんはもうそんなに多くはありませんし、ひとまず県内で良かった、今回も引き受けてくださってありがたいという思いです。朝から夫と一緒に必死にカゴに詰める作業を。3年前は妊婦だったのでほぼ夫が一人で詰めて運んでくれました。今回は身軽なのがこれ幸いで私もしっかり捕まえて、私が岡山市まで運んで屠殺していただきました。空っぽになったカゴを持ち帰り、がらんとした鶏舎を見てふうと一息。命をいただいて生きているという実感をする瞬間です。
そうして、パック詰めされたお肉が我が家に帰ってきました。早速、家族でいただこうと思って食卓に出すと、なんと6歳息子が「たべたくないな〜」と。いつまでもぐずぐずしていたので、はよ食べんさい!と食事を促しても鶏肉には手を出さずにごちそうさましてしまいました。
そんなことが何度か続いたので、よくよく話を聞いてみると、うちの鶏のお肉は食べたくない、他の鶏肉やうちのたまごは大丈夫と思っていることがわかりました。少し目をうるうるさせながらそんなことを話してくれて、彼なりに寂しさと悲しさを感じていること、食べられるものと食べられないものの線引きを考えていること、そんなことがわかってきました。彼としては、たまごは生きていないから食べられる、生きている鶏を殺して食べるのは嫌、それが直接には見えない他の養鶏場の鶏は食べられる、ということなのかなと思います。廃鶏やお肉にして食べることを伝えてても、それまでは特に反応がなくて、今日鶏連れて行ってきたよと言った後には、鶏舎を見に行って少なくなったね!くらいのコメントしかありませんでした。いざ食べるとなった時に、きっときっと彼なりに何度も考えたのでしょう。わたしたち夫婦がそんなことに向き合うようになったのは、彼よりずっと大人になってからです。よく言えばこれがまさに食育です。しかし、本人の意思とは関係なく農家の子として生まれて、幼い頃から命を食べることに向き合う彼の気持ちは一体どれくらい重いものを背負っているのだろう、と少し申し訳なく思いました。
食卓が生産現場から離れているという現代の食事事情を私は悪いことではないとも思っています。男木島・ダモンテ商会さんの「広いキッチン 長いレシピ」という本の中で、二宮将吾さんが、鶏の屠殺から焼き鳥にして食べるまでの過程を体験したのちに「料理とは、食材のポジションに関する情報をデザインするための人間の技術体系」(p.57)であると指摘しています。調理方法によってその生き物の「存在感」を見せたり隠したりしていて、「食べる者への配慮が料理の技術を発達させる」(p.57)と語っていました。これはすごい発見だなと私も思っていて、読んでからずっとその通りだなと感じています。例えば、私自身たまごを食べるときに、ゆで卵は命を感じすぎて食べにくく、スクランブルエッグにしてしまった方がいいと思う時があります。私はたまごを孵化させた経験があるため、スクランブルエッグの方が鶏やひよこの存在感を感じにくくなるからです。
今よりずっと生産現場が近かった頃は、そのような料理の発明が人々の精神を支えてきたこと、生きることへの罪悪感を薄めてきたことがあるのではないかと感じています。食卓と生産が遠いことは何かと問題視されがちですし、私もできるだけ生産の場で起きていること感じていることを伝えたいとは思っています。ただ一方で、その距離感の居心地の良さは人ぞれぞれであり、それぞれ異なった配慮が必要であると息子の想いを知ってより一層感じました。

たまご定期便「まるごとコース」始めます
2025年10月10日
一時休業していた養鶏部門を再開し、たまごの販売を始めて1年が経とうとしています。この間、たまごをご購入いただいた方、定期便をご利用いただいた方、暖かく見守ってくださった方、本当にありがとうございました。多くの方に支えられてまずは1年間たまごをお届けできたことに深く感謝しております。
そして、11月より、新しく「たまご定期便 まるごとコース」を始めます。概要は以下の通りで、まずは現在たまご定期便をご利用の方からご案内とさせていただきます。
頻度|月1回 発送日不定
数量|11月から翌年9月まで:たまご20個か30個、最終回10月:親鶏の肉(内容量未定)
価格|月々2700円(税込)
送料|地域ごとに異なります。今までのたまご20個コースと30個コースの間の送料です。
まずたまごは、鶏一羽が1ヶ月に産む量のたまごをイメージしてお届けしたいと思っています。鶏がたまごを産む量は季節によって変化があります。多くても1日に1個なので30個、少なくなると2日に1個の日も増えて20個くらいになります。そんな季節の変化を反映し、月1回、20個か30個のお届けを予定しています。ざっくりとした予定では、11月から春先までは30個、夏が過ぎて秋に向かう頃には20個になるかなと考えています。また、最終的にたまごを1年も産むと廃鶏となり、お肉となってその命をまっとうします。このお肉を年1回お届けを予定しています。こうして、たまごもお肉も含めて、まるっと鶏たちの生き様をお届けするという内容です。
基本的には、お届けのタイミングも、個数も、セット内容もお任せのまるごとコース。受け取り手にとっては、きっと不便なこともあるかと思います。それでも、鶏たちのリズムを想像できるような、自然の一部を垣間見えるような、そんな体験がお届けできたらいいなと思い、始めてみることにしました。
一方で、お届け曜日や内容についてのご希望は、できる限りお受けしたいと考えています。例えば、着日は土日がいいや平日がいい、月の前半や後半がいい、お肉はちょっと苦手なのでお肉の月もたまごがいい、などなど。あくまでみなさまの日々の暮らしに寄り添いつつ、たまごやお肉のお届けができたらと考えています。
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「まるごとコース」を始めるにあたっての経緯についてつらつらと書いてみました。
休業中に鶏舎を広くしたこともあり、休業前よりも多くの鶏を迎えての再出発でした。たまごを産み始めた昨年秋は、日々たくさん産まれるたまごに販売が追いつかず、たまごが余り気味になることも多々あり、心優しい方々にたくさん助けていただきました。再開といえども、1年目と同じように販売に苦しんだ期間を支えてくださった方々に、感謝をしてもしきれない思いでいっぱいです。気づけば多くの定期購入の方に支えられ、あくせくせずともたまごをきちんとお届けできるようになってきました。
そんな1年間を経て、改めて禾の養鶏の適正規模について見直し、次年度は少し鶏の羽数を少なくしてみることとしました。それは販売できるたまごの量に合わせてとは一概にもいえず、調達できるエサの材料の量、鶏舎のスペース、雛を育成するスペース、私たち家族の暮らしとの兼ね合いなど、総合的に考えた結果です。今後柔軟に変化していくものとは思いますが、今度は去年とは逆に、もしかしたら求めていただける量に少し足りないかもしれないという不安を少し抱えています。
そんな中、販売方法についても度々考えてきました。特に貴重な意見をいただいたのは、宮島で自然農を営む中岡農園の山本さんご家族です。野菜の販売方法をベースに、禾にとって適切なたまごの販売方法や経営について、哲学について、たくさんのご意見をいただきました。どこか価値観が似ていて、このやり方なら私は私らしく無理なく、お客様にも満足いただけるものができるかもしれないと思いました。ただ、一方で、うまく運営できるのだろうかという不安もあり、なかなか踏み出せませんでした。
そうこうしているうちに1年が経ち、いよいよたまごの数に余裕がなくなってきたここ数ヶ月で、とにかくやってみようと決心したものが、このたまご定期便「まるごとコース」です。
鶏がたまごを産む量は通年一定ではありません。季節の変化に敏感に反応する生き物であり、そのように変化できる環境にするということを私たちは重視しています。ただ、そんな変化を踏まえると、今までの定期便では、定員上限は一番少ない季節になります。1年間、確実にお届けできるたまごの量でしかお受けすることができないからです。そうすると、多く産む春先はたまごが余って販売に頭を抱えることになりますし、少なくなる季節にはたまごが足りるだろうかと不安になります。
たまごの多い春は、本来喜ぶべき時です。その期間はきっとお祭り感覚でイベントやお店で販売ができれば楽しいのかもしれません。しかし、私にはそれがちょっと苦手です。このたまごをどうしようかとつい悩んでしまいますし、春というのは農家にとってはとても忙しく、販売よりは生産に注力したい時期です。そのため、できれば多い時に多くお届けし、少ない時に少なくお届けする、というのが理想の定期便の姿になります。旬の春に頭を抱えるのではなく、定期便のみなさまと一緒に旬を喜べるように。たまごが少ない時には、少なくてどうしようと不安にならずに、たくさん産んでくれた鶏に感謝し労われるように。それがきっと私の目指す姿なのだと気づきました。そしてそれは、受け取る方にも新しい体験になるかもしれないとも感じました。
さらに話を進めると、たまごを1年も産むと廃鶏と呼ばれ屠殺されます。1年なんて早いね?!と思われるかもしれませんが、それがたまごを産む鶏が販売に最適なたまごを産む期間の一般的な寿命ですし、スーパーなどで売られている鶏肉はもっと短い数ヶ月の間に精肉されています。それに比べると1年という長さは鶏肉の食べ頃からは長すぎて、柔らかさではなく硬さが際立ってしまうのです。そのため、なかなか一般的には出回っていませんし、加工用に使われることがほとんどです。ただ、たまごを食べるその先には必ず親鶏がいますし、硬いと言っても、1年以上健康に動き回った鶏のお肉はしっかりと味がして美味しいものでもあります。1年間たまごを産み続け、最後にはその命も差し出してくれている鶏の存在がなかなか知られていないことに、少し歯痒さを感じ、この親鶏のお肉も定期便に入れてみたいと考えました。
こうして、こんな形があったらいいなと思う定期便を考えつくも、私自身、これをうまく運用できるのかちょっと自信がありません。何度考えても、これで大丈夫と思える形にならないのです。それもそのはず、私ですらよくわからない鶏のリズムだからです。もちろん今までの定期便もみなさまのご意向100パーセントでもなく、毎月決まった量を、決まった曜日に、というのはみなさまのご協力のもと成り立っていました。ただ、それは鶏のリズムではなく、私のリズムに合わせていただいていたのだと思います。私の予想がつく範囲のたまごの量を定期便としてお届けしていました。さらに、これを鶏のリズムに、となると、私自身もどう転がるのかわからないのです。それでも、それもちょっと面白そうですし、どちらにせよみなさまにご協力いただくのなら、私よりは鶏に合わせるほうが楽しいかもとも思います。結局は始めてみないとわからないということでえいやっとやってみることにしました。
そんなこんなで、なるべく1年間は変更なしでいきたいとは思いますが、今後、鶏とみなさまと私の塩梅で変わっていくこともよしと思っています。我が家はこれでも大丈夫かも!と思えたら、お付き合いいただけると嬉しいです。
近藤温子

大豆を煮るということ
2025年01月29日
大豆を煮るのはめんどうだなーとつい思ってしまう私。一晩水につけてから翌日煮る、ということは翌日の気分まで考えないといけません。今日大豆を食べたい煮たいと思っても明日まで待たないといけない、今日水につけてしまえば明日には煮ないといけない…。そんなことを繰り返し考えてしまうからめんどうくさいと思ってしまうのです。大豆を栽培していても家で煮ることはほとんど(本当は全く…)ありません。味噌作りも、藤原みそこうじ店さんに出会ってから藤原さんの味噌が美味しくって数年前の手作り味噌がなかなか減らなくなり、家では作らなくなりました。一方小豆は洗ってすぐに煮ることができます。そしてその日中に食べられる。食べたいなーと思ったその日に出来るのでさくさくっとことが進んで嬉しい気持ちに。夫が小豆作ってくれないかなと思っています。大豆を必要としてくださる方がたくさんいる一方で、横着なこと言っていてごめんなさい。
そんな大豆を最近は鶏のために煮ています。冬になると魚を獲れる量が減るからか、スーパーからいただく魚のあらの量が減ります。そうするとタンパク質の量がやや不足気味。過去の経験から大豆がその代わりになるのはちょっと厳しいと思いつつ、微々たる改善でもいいから何かした方がいいなと思って大豆をあげることに。
そうして、数年放置していたクズ大豆を引っ張り出してきました。なんだかちょっとかびてるし、砂っぽいし、これ大丈夫かなと思いつつ、明日絶対に煮るぞ!という強い気持ちで一晩水につけます。
翌日はやっぱりちょっと重い気持ちでその大豆を見つめるのですが、ぱんぱんに水を含んだ大豆を見ると随分大きくなりましたね!とちょっと感動します。そして煮始めると、だんだんだんだん、美味しそうなお豆が現れるのです。クズ大豆、煮てしまえばスッキリ綺麗!と心の中で唱えたくなるほど、クズとは思えない艶やかさ。
茹で上がった大豆は味噌作りの時のように潰します。以前はこの潰す作業は足でやっていて億劫だったのですが、マキタの攪拌機を導入したらちょっと楽になりました。
他の餌の材料と一緒に発酵飼料に混ぜて山にしてむしろを被せればおしまい。しっかり餌の準備ができたなと誇らしげな気持ちになります。そうして最後には、小豆もいいけどやっぱり大豆は必要だな、今年も夫に作ってもらおうと思います。そんなことを週に1回、冬の日々です。
近藤温子

